2008-10-08

[] 『密猟者たち』 トム・フランクリン (創元コンテンポラリ)  『密猟者たち』 トム・フランクリン (創元コンテンポラリ) - coco's bloblog を含むブックマーク はてなブックマーク -  『密猟者たち』 トム・フランクリン (創元コンテンポラリ) - coco's bloblog

密猟者たち (創元コンテンポラリ)

輝かしい才能の誕生を告げる、鮮烈デビュー! 間然するところのない犯罪小説の逸品「グリット」、静かな余韻を残す「青い馬」、鄙びたガソリン・スタンドを巡る哀歓が切ない「ダイノソア」、密猟者の三兄弟と狩猟監視官の暗闘を描いてMWA賞を獲得した表題作……凝縮された物語が人生の普遍的な瞬間を照らしだす秀作の数々。


先日カメラを提げて藪を散策していたときのこと。ふと見つけたいかにも何か潜んでいそうな石をひっくり返してみたら、下から巨大なムカデが這い出してきて仰け反ったのだが、子供の頃にもこれとまったく同じ体験があったことをその瞬間に思い出した。

ということを、ヒヒが石をひっくり返したら下からヘビが現れて気を失い、意識を取り戻したところでついまた石をひっくり返し、同じヘビに驚かされてまた気を失う、という本書の中の笑い話を読んでいて思い出した。

土地の呪縛に意識的な昨今、自然と人の結びつきを描いた作品に惹かれることが多いのだが、単に自然が描かれていればいいかというとそういうものではない。そんな中、米南部出身、あるいは南部ゴシックと分類される作家に親近感を覚えることが不思議と多い。マキャモン、ランズデール、フォークナーなど、風土、因習といった様々なものに縛られた人の在り様をグロテスクに浮かび上がらせる作風は、こちらの身近なところに在るどろどろとしたものどもに易々と同調し、こういうものが文化の垣根を越える普遍性なのかと妙に納得させられることもしばしば。(もちろん「南部」として理解しようとせず、こちら側に引き寄せて読んでいるだけだが)

そんな中とりわけしっくりきたのが今回のトム・フランクリン。少年時代の回想をナイーブに綴った美味しすぎる序文と、けっして自慢できるものではない暗部を神話的なまでに誇張したグロテスクさでもって描いた表題作は、有無を言わせずこちらの心に分け入ってくる力ある逸品。

この二篇は美・醜の見事な対比であると同時にない混ぜともなっているが、またこの間に挟まれる作品のどれもが強く印象に残るものばかり。アイロニー漂う小さな犯罪小説もよいのだが、スケッチ風のごく短いものにまで作家の個性と強い意志が反映されているため、さほど厚くない作品集ながら読後感は驚くほど重い。

残念ながら本書は品切れとなっているが、発売されたばかりの『エドガー賞全集―1990-2007』で、MWA賞を獲得した表題作を読むことが出来る。

エドガー賞全集 1990~2007 (ハヤカワ・ミステリ文庫)