2005-12-07

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引き続きスティーヴン・キングダークタワー1/ガンスリンガー』。現在半ば過ぎ。今日中に読み終えてしまいましょう。

昨日は角川版を引っ張り出してきて序文の確認をしてみました(旧版の序文は新版には収録されていません)。新版に書かれている『夕陽のガンマン』はおろか『指輪物語』にインスパイアされた云々という話すらなく、代わりに名が挙げられているのはチョーサーや神話の類。そしてこの時点でキング自身は、「この先の展開はまったくわからない」、「完結させるにはあと300年生きなければならない」などと、心の土壌に埋もれた物語は掘りおこしてみるまでわからないという(悪く言えば行き当たりばったりという)正直な告白をしています。

神話、あるいは叙事詩という側面については4巻まで訳出済みなので、キングがこの後どんな検証を行っているかということの一端はすでに目にすることが出来ます。異世界ファンタジイの多くが架空の国、架空の宗教、架空の歴史の中で終始展開し、また物語そのものが神話として語られることとは少し異なり、この『ダークタワー』では現在の我々の世界そのものが失われて久しい神話世界として設定されています。しかも驚くことに、この後の巻で主人公ローランドがこちらの世界にやってきてしまうという、さらに事態を複雑にする展開まで待ち受けています。

そんな物語を語るキングの口調はこれまでのものとは随分と異なり、簡潔かつ生硬な印象。これには賛否あるようですが、この後巻が進むにつれ本来の語りに戻ってきます(というかこの一巻の中でさえ、数篇の中篇からなるという性質上語りの変化が見られます)。個人的には、3巻『荒地』での展開の遅さを饒舌な語りで一層足を引っ張っているかのようなものと比べたら、この一巻の文体は悪くないと思います。とりわけ旧版での池央耿氏の翻訳は、原文との比較でどうとか、読みやすさは別としてとても面白い効果があるので、今回の風間氏訳と読み比べてみるのも一興。ただ、ファンタジイ・マーケットの成熟もあって新潮も本気で売りにきてるようなので、今回のとても読みやすい風間氏訳での統一というのも正解だと思いますが。

しかしキングというのは器用なのか不器用なのかよくわからない作家だと、今回改めて思いました。アメリカ以外の舞台を絶対に書かない(また書く必要もない)人でしたが、この異世界ファンタジイを描くに当ってまず選んだ舞台が、西部劇でおなじみの荒野なのですから。途中恐る恐るといった雰囲気も読み取れるような筆致で、中世ヨーロッパ風の王国の情景が描かれているのはやはり一種のテストだったのかもしれません。『魔道師の虹』になるとそのあたりの架空世界を描き出す手腕も一つの読みどころとなってきます。

ダーク・タワー1 ガンスリンガー (新潮文庫)